Chapter1 土壌の徹底された管理
除染作業と同時進行で進められたのが、除染で出た土壌を一時的に保管する仮置き場の選定と施工です。仮置き場の設置は放射性物質汚染対処特措法に明記されています。白河市では仮置き場をいち早く作ることで、除染後その場所(公共施設や宅地の敷地内)に土壌を保管する期間をできるだけ減らして、すぐに敷地外に運搬できるようにするため、仮置き場の選定と施工を進めていました。
白河市では合併前の4つの地域別に仮置き場を設置しました。白河地区(合併する前の旧白河市の区域)と大信地区では国有林野を無償貸し付けで借地して、用地を確保。そして表郷地区と東地区では、市有地や町内会の共有地を利用したり、また個人の所有地を借地したりして、全地域に仮置き場を設置しました。
現在の場所に仮置き場が決定するまでは周辺住民に仮置き場の安全性を丁寧に説明。納得してもらえるように市役所の職員が訪問し、説明会を開きました。実際に仮置き場設置の話が出た時の地区の様子を、当時の自治会長の方に伺ったところ、やはり当初は反対の声が多く、受け入れを理解してもらうのに何度も説明会を開き、話し合いを重ねたとおっしゃっていました。受け入れを理解してもらうまでが一番大変だったそうです。何度も足を運び説明を重ねた職員の努力、そして地元住民の方の正しい知識を持つ努力で、仮置き場の設置が承認されました。その成果として、白河市旗宿に白河市の仮置き場が設置できたのです。
そんな経緯で完成した仮置き場のひとつ、白河市旗宿大久保にある仮置き場を見学させていただきました。
広さは約11ヘクタール。国会議事堂の敷地面積と同じくらいで、18万7000袋もの除去土壌が保管されています。もともと国有林野だった土地を切り開いて作ったため、周りはほぼ山で囲まれており、実際の空間放射線量も低いです。
ここでどのように除去土壌が保管されているか除染情報プラザの方からお聞きした保管方法を簡単に説明します。
- 除去土壌をフレキシブルコンテナという袋に入れます。
- フレキシブルコンテナを置く前に遮水シートを敷き、万が一汚水が流れたとしても、地下に浸透しないようにします。
- シートの上にフレキシブルコンテナを四段重ね、さらにその全体に遮へい土のうを覆いかぶせます。
万が一汚染水が流れたとしても遮水シートの下は集水タンクに繋がっており、漏れ出すことはありません。仮置き場の空間放射線量はもちろん、集水タンクや敷地内の調整池などの放射線量も定期的にモニタリングされており、仮置き場の設置以来、数値が目立って上昇したことはないとのこと。このようにして、徹底的に除去土壌は管理されています。
現在は建設会社の作業員3人が仮置き場で作業をしています。
仮置き場で働いている作業員の方に仮置き場で働くことに不安を持っていたかについてお聞きしたところ、「線量の高いところは正直不安だったけど、宅地除染を経験したので今は、不安はない」とおっしゃっていました。作業していた人数が多いときは20~30人近くが作業していたとのこと。
仮置き場に入ってみると、除去土壌が保管されているとは思えないほど、周囲がきれいに整備されていました。道路の脇には側溝が設けられていて、雨水や雪解け水が一気に流れて、造成した土地で土砂災害が発生しないような対策も施されています。空間放射線量や水路を流れた調整(コントロール)する調整池の線量などは定期的に測定し、公表することで仮置き場の安全性を伝えています。また、この測定は地元の自治会の監視委員会が行っていて、市民に仮置き場の安全性を伝える役割を担っています。このように白河市の仮置き場の管理は徹底されていて、抜け目がありません。環境省から「管理がいいね!」とお墨付きをもらい、他の市町村から見学に来たり、環境省の除染事業を伝える動画の取材を受けることもありました。白河市の仮置き場の管理は県内でピカイチと言っても過言ではないでしょう。
Chapter2 除染に携わってきた人のお話
今回この記事を書くにあたって様々な方に取材を行い、詳細な情報をいただきました。その取材では知識的な質問だけではなく、取材に答えてくださった方の放射線に対する考え方や取り組みへの想いを話してくれました。
白河市の除染をより詳しく知るために白河市役所生活環境部環境保全課の職員の皆さんに取材を行いました。事前に除染についていろいろ調べていった中で、この点は白河市ではどのように行っていたのだろうと疑問に思うことがありました。そこで昨年まで設立されていた放射線対策課で業務を行っていた真舩薫さん、金澤裕之さんに白河市の除染の対応や業務に携わったことについて伺いました。専門用語を詳しく解説してくださり、とても丁寧に応えてくれました。
続いて取材に応えてくださったのは白河市旗宿地区にある仮置き場の測定を自主的に行っているいる監視委員会の代表の鈴木茂吉さん。
仮置き場とその周辺の線量測定を、旗宿地区の自治会で自主的に設立した監視委員会で行っています。その代表を務める鈴木さんに、なぜ監視委員会を立ち上げたのか、仮置き場の受け入れについてどのように考えていたのかなどをお聞きしました。若い人が除染や仮置き場について知ろうと思ってくれるのはうれしいと、笑顔で丁寧に応えてくれました。
Chapter3 おわりに:これまでも、そしてこれからも
これまで白河市の除染の取り組みについて話を進めてきました。白河市の除染は宅地除染が2016年の11月に完了し、今年は除染後の線量を測定する事後モニタリングを行っています。除染作業は森林除染を行っており、2017年9月末に終了する予定となっています。まだ除染やってるの!?終わってないの!?と思うかもしれませんがこれは国の除染ガイドラインが平成28年に変更され、従来の宅地に加えて森林の除染も行うようになったため、2017年度も除染が実施されています。
原発事故が発生してから白河市では宅地除染が完了するまで、およそ5年と半年の時間がかかりました。皆さんはこの5年と半年は長いと思いますか?短いと思いますか?私は白河市に住んでいながら、放射線や除染についてあまり知らず、事実を知るたびにただただ驚かされるばかりでした。原発事故が発生してから今まで多くの方が放射線と向き合い、わからないこと初めてのことに困惑する中、震災前の白河を取り戻すため除染活動に取り組んだ5年半は長かった、短かったという一言では表せない5年半だったと思います。
話は変わりますが、皆さん「箱の中身はなんじゃろな?」というゲームを知っていますか?中に何が入っているか分からない箱に手を入れ、中身を当てるゲームです。箱の中身が分からない状態でものを触るのは勇気がいります。もし危険な生物が入っていたらと思ってなかなか触れない、たわしやこんにゃくといった日常にあるものでも中に入っていると知らずに触ると、ビックリして危険なものだと勘違いする人もいるでしょう。ならば中身が分かっていたらどうでしょう。中身が分かれば、わたしは気をつけてゆっくり触ればいいし、こんにゃくはすぐに触れるでしょう。恐いと思う人がいるでしょうか。
私はこの「箱の中身はなんじゃろな?」は放射線と似ていると思うのです。放射線も日常にあるもので、私たちは毎日放射線を浴びています。確かに何も知らない状態で放射線って聞くと目に見えなくて恐そうって思う人も多いと思いますが、きちんと放射線について知れば過剰に恐がることはなく、何が危険で何が危険ではないかというのが分かるはずです。たとえ目に見えないものでも知識を増やすことで対処できる。これは私がこの記事を書く前に読んだ本とこれまで調べ積み重ねてきた放射線や除染の知識、そして除染を携わった方々にお話を聞いたことから自分なりに考えた放射線との向き合い方です。
最後に、私が一番伝えたいことは、白河市は放射線の問題において除染から次のステップへ移ったということ。これまでに行ったことも大切ですが、サブタイトルのようにこれからも大切なのです。下がった線量が維持されているか、除染土壌が全て搬出されたら仮置き場はどのように利用するか、などやるべきこと考えるべきことがたくさんあります。除染が終わったというのはとても大きいことです。しかしこれはまだ本当のゴールではありません。これからも白河市の原発事故に対する取り組みは続きます。
この記事を読んで少しでも白河市の除染について知り、興味を持っていただけたら幸いです。
Thanks for Books 執筆にあたって参考にした本
- 知ろうとすること。(早野龍五・糸井重里,新潮社,2014)
- はじめての福島学(開沼博,イースト・プレス,2015)
- みんなで決めた「安心」のかたち(五十嵐泰正+「安全・安心の柏産柏消」円卓委員会,亜紀書房,2012)
- 震災復興と自治体「人間の復興」へのみち(岡田和弘,自治体研究所編,自治体研究社,2013)
- よくわかる環境社会学(鳥越皓之・帯谷博明編著,ミネルヴァ書房,2009)
上記の本は、記事中に引用はしませんでしたが、取材の考え方や文章の書き方について、参考にしました。
Special thanks ご協力いただいたみなさん
取材に協力いただいた方
- 環境省除染情報プラザ(福島市) 青木仁さん
- 白河市役所市民生活部環境保全課 真舩薫さん 金澤裕之さん
- 三金興業株式会社 金子善弥さん 今井正さん 阿久津啓さん
- 旗宿自治会仮置場監視委員会 会長 鈴木茂吉さん
- 取材にご協力いただいた皆さん
編集に協力いただいた方
- 白河で取材を行ってくれた彦根東高校新聞部のみなさん
- 校閲協力 裏庭編集部の高校生のみなさん
- 校閲協力 沢田安代さん
- コミュニティ・カフェ EMANON 青砥和希さん
白河市の除染を伝える記事を書くことが出来たのは、多くの方のご協力があったからです。この場を借りて御礼申し上げます。