南相馬市小高に、高校生がつどう場を。 小高駅前のcafe「OMSB」に行ってみよう

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2016年12月10日、我々編集部一同は南相馬市小高区へ向かった。実際に足を運んで復興の様子を知るため、そしてある「たくらみ」のお手伝いをするためだ。出迎えてくれた花岡高行さんは、はじめに、南相馬市、特に小高区の復興の現状をお話してくださった。

花岡さんと待ち合わせたJR小高駅。この日はJR常磐線が小高まで再開通した日。2017年2月現在も、仙台からJR常磐線で南下する際は最南端の駅となる。ここから南下するためには代行バスへの乗り継ぎが必要。

説明をする花岡さん

花岡さんは2016年10月に白河市の「コミュニティ・カフェ EMANON」にいらっしゃっており、今回は約2か月ぶりの再会であった。

花岡さん
ようこそお越しくださいました。今日は1日よろしくお願いします!
ソルティー
お久しぶりです! 今日は1日お世話になります。よろしくお願いします!

 

南相馬市小高って、どんなところ?

震災前、2010(平成22)年の小高区の人口は12,546人[※1]。

しかし、震災以降福島第一原子力発電所の事故の影響で避難を余儀なくされた。2016(平成28)年7月12日、南相馬市小高区では避難指示解除準備区域・居住制限区域の避難指示が解除された。震災前と同じように、小高に住むことができるようになったが、帰還しているのは1,000人ほど。コンビニは国道6号沿いと内陸に1軒ずつ。座って食事をとれるところは3か所[※2]。

我々が花岡さんとともに向かったのは塚原地区。第一原発から約20kmの地点に位置し、震災前には115世帯約450人が生活していた。津波で69戸が流失し、13人が犠牲になった。この地区に戻ってきた人は、山の上に新居を構えている。


塚原地区からは津波からの復旧の様子も見ることができた。高さ7.2mの防潮堤に加え、県道との交差点まで植林し防災林を作る予定だ。

花岡さん
基本的に津波を防ぐことはできません。今回だって防波堤がなかったわけではありませんが、それをはるかに上回る津波が来ました。なので、津波を「止める」のではなくて、「津波から逃げる時間を稼ぐ」という意識で復興に取り組んでいます。防潮堤や防災林で稼げる時間はほんの数十秒かもしれません。だとしても、その数十秒で何人の命が助かるのかを考えています。

南相馬市小高区塚原にて。防潮堤の建設が進んでいた。

花岡さん
この県道[※3]より内陸側は田んぼでした。しかし津波が来てしまって、原発事故もあって、人が戻ってきても再び米作りが出来るかと言われると、実際に震災前にやっていた方々は高齢者で、ブランクを抱えています。また、その子供世代は避難を機に移住して、その土地で生活を営んでいます。このような状態で『誰がやるのか』と言われると、とても難しい現状があります。

塚原地区を縦断する福島県道391号線を、南を向いて撮影。西側が浸水してしまった水田、東側は防潮林の建設中。

 

海に近い場所は内陸と比べて風雨による影響を受けやすく、放射線量が低くなる傾向にある。写真は2016/12/10 11:26に小高区内で撮影。

 

 

高校が「帰ってくる」

厳しい現状の中で、明るいニュースもある。平成29年度に開校が予定されている、小高産業技術高校だ。[※4]

小高産業技術高校予定地。既存の建物を使うほかに、新たに建物を建設して授業を行う。

現在ともに南相馬市原町区内にサテライト校が置かれている小高工業高校と小高商業高校が合併して新たに誕生し、小高区に帰ってくる。また、小高区内の小中学校も平成29年度から再開。しかし、来年度入学予定の新小学1年生は4人。

そんな中、花岡さんは、高校が帰ってくることに合わせて、あることをたくらんでいた。

たくらみを聞き出すふみふみライター(右)と花岡さん

ふみふみ
今、花岡さんは小高区の高校生のために1つたくらみがあると聞いたのですが、何をしているのですか?
花岡さん
『おむすび』を製作しています。
ふみふみ
『おむすび』、ですか…?
花岡さん
はい、『Odaka Micro Stand Bar(小高マイクロスタンドバー)』、略して『OMSB(おむすび)』です。
ふみふみ
つまり、売店のようなものですか?
花岡さん
そうですね、売店をイメージしてもらっていいと思います。しかし、この『OMSB』は基本駅前に置くつもりですが、車なので、移動販売もできます。
ふみふみ
すごいですね!! ところで、どうして『OMSB』を作ろうとしたのですか。

JR小高駅の時刻表。放課後の時間でも、電車の間隔は1、2時間に1本。

花岡さん
来春から高校が再開するのですが、地域にはまだ高校生が電車を待つのに、時間をつぶせるような施設がありません。なので、少しでも高校生の力になれればと『OMSB』を作っています。
ふみふみ
コンビニ等もないのですか。
花岡さん
そうですね、駅前にはありません。震災から6年がたとうとしている今もなお、ここ小高では復興が完全になされていないのです。
ふみふみ
同じ福島県でも白河とは全く異なるのですね。驚きました。でも、コンビニが無くても『OMSB』があることで、飲み物やお菓子を買えるので高校生はきっと喜んでくれると思います。
花岡さん
そうだといいです。高校生に受け入れられて、つどいの場となってほしいとも思っています。
ソルティー
新たに学校が再開する地域につどいの場を作ろうという花岡さん。この取材から1週間後、憩いの場cafe「OMSB」はオープンした。

ソルティー’s 取材後記

ソルティー
震災からまもなく6年が経とうとしている今、小高は、避難指示の解除とともに、復興へと歩み出そうとしているのだと、今回の取材を通して感じた。何をするにしても「1歩目」とはなかなか難しく、またそれがなければ何も始まらない。とても重要なものだが、花岡さんは、復興の重要な「1歩目」を「OMSB」という形でスタートさせた。たとえその歩幅は短かったとしても、これが復興の足がかりになるはずだ。

※1 南相馬市ウェブサイトより http://www.city.minamisoma.lg.jp/index.cfm/8,2737,44,html

※2 ラーメン「双葉食堂」、寿司「浦島鮨」、弁当「Café いっぷくや」(南相馬市役所小高区役所内)の3か所。

※3 私たちがお話を伺っていたのは「塚原公会堂」のそば。ここは福島県道260号北泉小高線と福島県道391号広野小高線の交差点になっている。

※4 詳細は学校ウェブサイトへ http://www.odakasangyogijutsu-h.fks.ed.jp/

デスクインフォメーション

編集長
OMSBでは2017年4月の高校開校に向け、「通学路に明かりを灯すコーヒーセット」(仮称)を販売する予定とのこと。1セット販売する毎に、JR小高駅から小高産業技術高校までの通学路に1つソーラー充電式のライトを設置する取り組み。小高にはまだまだ夜暗い道もあるので、みんなの善意で小高の安心を作っていければと花岡さん。小高は、コーヒーを飲みに行くと、なにかいいことのある街…なのかもしれません。

花岡高行(Hanaoka Takayuki)

cafe「OMSB」発起人

1985(昭和60)年、神奈川県生まれ、東京都育ち。南相馬市役所企画課復興推進係所属。東京都杉並区役所に勤めていたが、2014年4月から南相馬市役所に派遣されている。2016年12月17日、JR小高駅前に、cafe「OMSB」をオープン。

Odaka Micro Stand Bar~オムスビ~(小高マイクロスタンドバー OMSB)

住所

〒979-2121 福島県南相馬市小高区東町1丁目
(JR小高駅前)

 

営業時間

9:00~15:00

営業日

毎週土・日曜日

URL

Odaka Micro Stand Bar~オムスビ~
https://www.facebook.com/odakao.msb/

ABOUTこの記事をかいた人

ソルティー

白河市表郷出身。現在は東北大学理学部数学系に所属しており、将来は数学を用いた仕事がしたいと仙台の地で日々努力中。ライターとして記事を執筆する傍ら、Webサイトの編集を兼務、さらに大学では報道部に所属している。特技はカレンダーの曜日を当てること。座右の銘は「継続は力なり」。