「東北画」という問いを続ける。『東北画は可能か?~地方之国構想博物館~』展トークショーレポート

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東北芸術工科大学(山形県山形市)主催の企画展『東北画は可能か?~地方之国構想博物館~』が8月20日まで鶴岡アートフォーラム(山形県鶴岡市)で開催されています。学生、教授、市民によるキャンバスサイズ12号の個人作品99点に加え、共同制作による絵画や、立体作品が展示してあります。2010年からスタートした、『東北画は可能か?』プロジェクトによる展覧会。芸工大教授の三瀬夏之介さんと鴻崎正武さんのトークショー(2017年7月15日@鶴岡アートフォーラム)での言葉から、プロジェクトと展示をご紹介します。

東北画に取り組むきっかけ

奈良県出身で日本画コース教授の三瀬夏之介さんと福島県出身で洋画コース准教授の鴻崎正武さん。関西と東北、水彩と油彩という対極な両者が同時期に東北芸術工科大学(以下芸工大)で出会い、何か面白いことをしたいと思ったのが『東北画は可能か?』プロジェクト最初のきっかけだ。

今回の三瀬夏之介さんの出展作品『肘折幻想』(2009)

三瀬さんは芸工大赴任後、地域型アートプロジェクト『ひじおりの灯』に参加。これは、肘折温泉(山形県最上郡大蔵村)の開湯1200年を記念して、芸工大と肘折地区が共同で開催している灯籠絵展示会。地域の方々とコミュニケーションをとりながら、灯篭絵『肘折幻想』の制作を行った三瀬さん。このような山形・肘折での経験が、それまでアートシーンで自己表現を展開してきた彼自身の作家活動に深い反省をもたらしたと振り返っている。

三瀬さん

個人の作品を展示し、キャリアを高め、どうすればデビューできるのかを志向する作家性は終わっていくと感じる。ボトムアップ式に表れてくる表現を自分の中で確保していかないといけない。

作家個人のアートの場が変化していくという三瀬さんの予感。日本という国の一極集中は、2020年の東京オリンピックを最後にもっと開かれていくという予感を持っている。もうひとりのプロジェクトの発起人である鴻崎さんも、それに同調する。

鴻崎さん

一極集中は東北に似合わない。1人1人の集落や個人の向き合い方と(いわゆる)“アート”は少しいびつな感じがする。(関係性の)新しい形態を探せないだろうか?

福島県出身の鴻崎さん自身が、東北画プロジェクトを通じて新しい形態を探っている。

今回の鴻崎正武さんの出展作品『TOUGEN TOHOKU No.1』 (2017)

震災と、東北をめぐる変化

2015年に発行された『東北画は可能か?:2009-』という題のアーカイブブック(チーム篇舟編, 三瀬夏之介,鴻崎正武監修,東北芸術工科大学,2015)がある。その中で三瀬さんは

三瀬さん

科学技術や医療の進歩、グローバリズムが追いやったはずの各地域の信仰、祭祀や民俗知などに、私たちの多くが表現の根拠を探り出している。

と語っている。山形に来ると、関西では出会わない風習に出会う。三瀬さんが衝撃を受けたのは、ムカサリ絵馬という若くして亡くなった子のために絵馬を奉納して、あの世で結婚させるという山形県村山地方に残る風習。今回の展示では、12号キャンバスの裏に、この絵馬を置いたという形で作品に取り入れた。民俗資料と自分たちの作品を地続きに見せることへの試みだという。

2009年からはじまったプロジェクトは、2011年に東日本大震災という東北を襲った災害を経て、2017年まで続いてきた。プロジェクトに震災が与えた影響は少なくない。鴻崎さんは同アーカイブブックで次にように語っている。

鴻崎さん

『東北』はまだまだ論理的な枠組みでは捉えきれない。未来の地平を想像することは、震災や原発問題以後、より『切実なもの』となってしまった。分かるものだけが共有できる漠然とした『アートなもの』ではなく、東北に寄り添う新しい『共感』を創造することが重要なことになった。私たち自身がより東北にとって『切実なもの』を求めて、変化し続けなければならないだろう。『東北画』は東北人の『心』を描かなければならない。

東北という土地だからこそ都市部にはない美術の形や表現を探し、その独自性を東北のアートのインフラとして構築していく必要性を、より強く感じているという。三瀬さんも同様だ。

三瀬さん

東日本大震災以降…(中略)…、様々な東北観を生み出してきた『東北画は可能か?』は、逆に統一的な回答を求められているように感じることが多くなった。未曾有の危機に直面し、求心的な『東北』の復興を求める声と、この土地での美術の実践とは決して無関係ではない。

震災以前は、東北というイメージを解いていこうと試んでいたが、震災後は、東北的なイメージを逆に求められるようになり、外からの期待に応えなくてはならないと感じるという。

東北画は可能か?共同制作『東北山水』 (2011)

プロジェクトを続ける理由

東北画プロジェクトでお二人は、自分たちの受けてきた教育の不満な部分を補っていくという。従来の美術大学では、学生が他の領域の学生と交わることができなかったり、先生と基本的に会えなかったりする。そうではなく、院生と学部生が話したり、地域の人と学生が話したりする。暑苦しいと感じるくらい先生と接する機会を作る。だから、画を描く前によく話をする。「東北の外から見る東北画を、東北の人が突き付けられるということはどういうことか?」そんなディスカッションをたくさん行う。

共同制作のようす

プロジェクトは、いろんな人が自分のメソッドや方法論を用いて、他者と出会う場、プラットホームのようなもの。作品の発表の場所も美術館やアートギャラリーだけではなく、使われなくなったシャッター街などさまざまだ。シャッター街で、絵画の展示以外にも音を中心としたイベントを行う。ただ絵を飾るのではなく、展示したフィールドをも熱い舞台にするのも、この展示の醍醐味だという。

もうひとつ、お二人が明確に共有している東北画プロジェクトを続ける理由がある。それは、東北に美術を貯めること。その場所の表現を、その場所に貯めていく。政治的にはこうだったが個人の作家にはこう見えていた、というものをアーカイブし、モノに託し技術を貯めていく。中央集権ではない文化のビジュアルを、その場所に貯めていくべきだと三瀬さんは言う。

このプロジェクト、展示のタイトルには“?”マークがついている。東北の見方・背景・概念など、決して固定されず、変わる前提のあるものを常に問い続けていく、その意思がクエスチョンマークに込められている。

この夏は、鶴岡に:編集後記に代えて

ワカ

今回、鶴岡アートフォーラムでは、震災前と後の作品がシャッフルして展示されている。全体として東北のイメージがどう見られるのか。1つ1つ見るとどう個別のものが見えるのか。全体と細部のイメージからは何が見えるか。
展示作品には、道・山・湯などのテーマのあるもの、東北での個人の経験を落とし込んだ画、山形の民俗と他国の民俗を作品でつなげたものなどがある。それら1つ1つの作品が東北を構成する要素になっているように思う。この夏は鶴岡アートフォーラムで、“東北画”に触れてみてはどうだろうか。
自分自身、東北とは何か、自分は東北をどのような手段で表現をしていこうか。と考えるきっかけになりました。単純に美術作品として見るのも面白いですが、この作品は東北の何を表現しているのかと考えながら見るのも作品と展示に理解が深まって良いです。美術で表現された東北を感じてみてください。

鶴岡アートフォーラム

三瀬 夏之介(Mise Natsunosuke)


画家。1973年奈良県奈良市生まれ、山形県在住。1999年に京都市立芸術大学大学院を修了し、はじめ京都・奈良を拠点に制作活動を行っていた三瀬は、山形の大学で教鞭をとるようになった2009年頃から、東北の風土・風俗に対する民俗学的なアプローチを試み、それによって現代美術の可能性を追求するようになる。画家は、墨のたらし込みやデカルコマニーによる偶発的なイメージ、細筆を用いて墨で繊細に描き出されたモティーフなどを組み合わせ、和紙の断片を一つ一つ継ぎ接ぎしながら画面を構成・拡張させていく。そこには特定の地域に固有の様相ばかりではなく、実際に目にすることの出来ない宇宙の成り立ちや拡張までも表現しようとする画家の意識が投影されている。現在、東北芸術工科大学教授。

鴻崎 正武(Kozaki Masatake)


画家。1972年 福島県福島市生まれ。2005 年に東京芸術大学大学院絵画科後期博士課程を修了し、現在は東北芸術工科大学芸術学部洋画コース准教授。主な個展にVOLTA NY Exhibitors(2014 / Dillion Gallery,ニューヨーク) 、”TOUGEN” (2012/アートフロントギャラリー,東京 )など。主なグループ展に“東北画は可能か? -地方之国構想博物館- (2016/東京都美術館、 T-Art Gallery)、”New spirits 福島”(2005/福島県立美術館)など。作品は東京藝術大学、守谷育英会、佐藤美術館にコレクションされているほか、代官山 T-Site Anjin、東京ガーデンテラス紀尾井町など、コミッション・ワークの成果としても見ることができる。2016年には、ゆかりのある双葉町に”TOUGEN”シリーズの絵画を寄贈。
※鴻崎正武さんの独占インタビュー記事を、雑誌『裏庭』で読むことができます。ご希望の方はこちらまで。

東北画は可能か?~地方之国構想博物館~

※『三瀬夏之介個展~日本の絵~』も同時開催

会期:2017年7月15日〜8月20日
会場:鶴岡アートフォーラム
住所:山形県鶴岡市馬場町13-3
電話番号:0235-29-0260
開館時間:9:00〜17:30(金土〜18:30) ※入場は閉場の30分前まで
休館日:7月24日、31日
料金:一般 500円 / 高大生 300円 / 中学生以下無料

 

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最近、同じ部活の人から誕生日にシャボン玉をもらい、それに1時間ではまってしまいました。次の日、家の前でシャボン玉で遊んでいたら、近所の子供に引かれました。気がつけば、高校生ライターになっていた。文章を書くのは得意ではありませんが、記事を通して情報をコミュニティ内外に発信することに努めます。