ガイナックスが福島に進出した理由ー社長の浅尾芳宣さんに聞いてみた

もえ

もえ
ゆうな
震災後につくられた福島ガイナックスに対する想いを伺いに、三春町へ。わたしたちにとってはじめての取材で緊張が高まる中、社長室からラフな服装で現れた福島ガイナックス社長の浅尾芳宣さん。わたしたちは白河の魅力を伝える動画をつくろうとしていますが、動画をつくる知識はほぼありません。そこで、多くのアニメを手がけるガイナックスの浅尾さんに、動画制作の基本や極意も学ばせてもらいました。浅尾さんご自身がアニメの世界に入ったわけなど、普段は聞けない話も!

 

どうして福島にアニメの会社があるの?

もえ
アニメの制作会社であるガイナックスを、福島に作ろうと思ったきっかけはなんですか?

浅尾社長に、福島ガイナックスにてお話を伺う。

浅尾さん
2011年に東日本大震災が起きました。震災が起きてすぐ、復興支援のボランティアなど、個人で被災地のために行う活動が数多くありました。けれどその一方で、アニメの会社として復興に協力できることが見つからなかったのです。ある程度時間が経って、街も少しづつ元の姿に戻ってくる。しかし、遠方に避難し、帰るに帰れない人がいるという報道を聞きました。使っていない施設があるのにもったいない。廃校の校舎を活用して、アニメで福島の情報を発信したいと思い、会社を設立しました。

「福島ガイナックス」は、三春町の三春ダムにほど近い集落の中にある。

もえ
そういう経緯があったんですね。「福島ガイナックス」という会社の目的はなんですか?
浅尾さん
大きくわけて4つあります。
1つめは、エンターテイメントの産業を福島に生み出すこと。雇用を生み、県外への人口流出を抑え、新たに若い人を呼び込むことです。
2つめは、新しい地方スタジオをつくること。震災後、福島県には避難によって使われていない施設があると聞きました。それらをミュージアムとして活用することで新たな情報発信と観光拠点にすることです。
3つめは、イベントの明るい話題を出して、イメージアップを図ること。安全・安心を訴えることは大事ですが、楽しそう、おもしろそう、と関心を持ってもらうことが理解につながります。
4つめは、福島県内の逸話や伝承をアニメ化することで、ファンを獲得し、福島を知ってもらうきっかけをつくること。
この4つが、「福島ガイナックス」という会社の目的です。

訪問した時の企画展は名探偵コナン連載20周年記念「コナン展」

伝わる情報発信って?

常設展のひとつ「ガイナックス流アニメ作法展」の入口。TVアニメのできるまでが再現されている。

ゆうな
なるほど…アニメではないのですが、実はわたしたち、白河のPR動画をつくろうとしているんです。
浅尾社長
そうなんだ。その動画って、見てもらいたい人はどんな人ですか?
ゆうな
えーーーーーーっと(汗)

白河を知らない人たち、幅広い世代の人たちに見てもらいたいです!
浅尾さん
うん。誰にでも受け入れられるような形でつくるのは、ほぼ、誰にも受け入れられないのと一緒なんだ。誰にも受け入れられるっていうのは突出したもの、つまり目立つものがない。だから、悪い意味で単なる情報発信になってしまう。
浅尾さん
例えば、「政宗ダテニクル」というアニメ。伊達市さんから、市のPRをしてもらいたい、とリクエストをいただいた。
伊達市さんのリクエストは、市にルーツのある伊達家初代から16代までの人をPRして欲しい。そして、最も有名な17代目である伊達政宗も、合わせてPRして欲しい。そして、誰にでもわかりやすく、誰にでも観れて楽しいものを…と。
ゆうな
お、おおー…(汗)
浅尾さん
「誰にでもなんて…そんなの無理だよ!」と思いましたね。だから市のほうには、「家族や男性は諦めてください」と伝えました。そうしてできた物語が、初代から17代目まで全員イケメン。17代目の政宗がピンチになると、初代から16代目が降臨して政宗を助ける。もっとピンチになると、「御先祖合体」で合体し、さらにイケメンになって敵を倒す。声優さんにも女性に人気な方を揃えています。まさに、アニメが好きな女性や、歴女が喜ぶ内容ですね。

政宗ダテニクル©福島ガイナックス/福島県伊達市 YouTubeにて公開中

浅尾さん
先日行った政宗ダテニクルの声優イベントにも、2000~3000人が来てくれました。女性ばかりだけどね。そうして集まってくれたイベントで、伊達市さんも市の紹介を行いました。
人の好みは、幼稚園生、10代、おとしよりと、それぞれバラバラです。幅広く見てもらいたいとなると、一番伝えたい主張がはっきりしないのです。「誰に情報を伝えたいのか」を明確にすることが大切です。

 

ゆうな
では、わたしたちは誰に情報を伝えたらいいのでしょう…(汗)
浅尾さん
伝えやすいのはまず、自分たちの世代。そこを目指すことで、よいものが作れると思います。
いま展示をしている名探偵コナンだって、おとしよりがターゲットなわけではないでしょ。孫が見ているから一緒に見る。あるいは、小さい頃から見ていた人が、成人して今でも見ている。だから幅広い世代に人気があるんです。
いま君たちが作ろうとしている動画は、長いものではなく、ほんの2、3分のもの。その中の最終目標は、白河のもの、白河だるまが欲しいと思われるような動画にすること。その動画の中で、だるまを擬人化したり、キャラクター化したり…いろんな方法がある。そして大切なのは、「そのものの魅力を一言で表す」こと。白河だるまの特徴ってなんですか?
ゆうな
えーと、だるまの顔の中に鶴亀松竹梅すべてが入っていて、日本一品のいいだるまと言われています。

白河だるまについてはこちらもチェック!

浅尾さん
そうだね…例えば「白河だるまは、幸運の幕ノ内弁当です」とか。一言で表したものを、みんなに共有する。別にだるまの知識は、インターネットやSNSがあるから、自分でも調べられる。むしろ、ネットに載っていないものを動画にして出すこと。
最後のアドバイスとしては、ツッコミが入るように作ること。今はSNSやニコニコ動画で見ている人が動画に参加できるので、見ている人が共有できるものを心がけるといいよ。
ゆうな
なるほど…動画ではナレーションも取り入れるのですが、注意点や、工夫の仕方はありますか?
浅尾さん
もちろん、滑舌はよくないとダメ。そして、ターゲットに合わせて読むこと。低学年向けに作るのに、難しい言葉を使ったって、意味がわからないから、人気もでない。やさしく、わかりやすい言葉をつかう。逆に、大人向けであれば、やさしく分かりやすい言葉を使ったら、ばかにされているみたいでしょ。あとは、あえて方言を入れたり。作った動画を見る人の中には、はじめてその方言を聞く人もいる。「自分たちにとってのあたり前は、他の人にとってもあたり前」ではない。「自分のふつうは、誰にとってもふつう」ではない。そこを覚えておくといい。

浅尾さんのこれまでとこれから

ゆうな
浅尾さんは、何を求めてこの世界に入ったんですか?
浅尾さん
別に、これというものはない。ただ、いつか立派なおじいさんになりたいなあとか、楽しく生きてその先にいい人になりたいなあ、と思っていた。中学校、高校をあんまり真面目に通っていなかった。高校を卒業してからやっていくなにかで、飯が食えて、今からスタートできるものがいいなあと思っていた。ある意味消去法で、仕事を探していた。高校3年生だったから、進路を決めている子がたくさんいた…えっと、君たちは夢とかあるの?
ゆうな
いちおう…(汗)
浅尾さん
なるほど。高校3年生の段階で、絵画の道に進もうと思っても、美大を受けようと受験に向けて一生懸命絵を描いている。音楽が好きだから音楽の道に進もうと思っても、ギターやらなんやらを弾いて、頑張っている人がいる。でも女子たちにちやほやされたくて横文字っぽいのがいいなあと思っていて、たまたま映像の仕事を見つけた。
今は、映像の勉強ができる学校もあるけど、昔はあまりなかったから、「今からでも頑張ったら、もしかしたらなんとかなるかなあ」と思って、そこからこの世界に入った。そもそも、映像の仕事は監督だけかと思ってたし、監督ってなにするんだろうと思ってたくらい。でも一つなにかをはじめて、ずっとやっているといつか何かにたどりつけるかもと思ってやっている。今もたどりついている気はまったくないね。

浅尾さんと、福島ガイナックスに並ぶ参考資料(コミックスやDVD)を物色。浅尾社長の印象に残っているガイナックス作品は「天元突破グレンラガン」とのこと。

今後に向けて

もえ
これから、福島でやりたいことはなんですか?
浅尾さん
福島県ではいま、震災で最も被害大きかった浜通りをハイテクな街にしようとしています。「イノベーション・コースト構想」と呼んでいますが、30以上のロボットや、モビルスーツ、ドローンなどの開発施設が作られる予定になっています。構想はありますが、一般にこれはまだあまり知られていません。

福島ロボットテストフィールドの概要(福島県公式ウェブサイトより)

もえ
確かに、よく知らないです。
浅尾さん
そこで、ハイテクな街になった浜通りを舞台に、小学生を主人公にしたアニメを作りたいと考えています。そして、新たに生まれ変わった浜通りを、次の世代の子どもたちに伝えたいと思っています。若い人たちに興味を持ってもらい、その産業の担い手になってほしいと思っています。
もえ
そんな計画があったとは全然知りませんでした!アニメを楽しみにしています。今日はお忙しいところありがとうございました!

最後に記念写真を撮らせていただきました

もえ’s 取材後記

もえ
最初に社長の姿が目にはいったとき、寡黙な人かなと思いました。しかしインタビューがはじまると、浅尾さんのほうから質問が来ることがあってビックリしました(笑) 何かを伝えるために大切なこと、わたしたちの動画制作で欠けていた部分を教えていただきました。インタビューの受け答えの様子を見て、とても熱い方だと思いました。取材面では、わたしたちが質問をうまく出せなかったり、メモに夢中になったりなど、多くの課題が残りました。

デスクインフォメーション

編集長
2017年3月26日まで、福島ガイナックスでは「みんなのうたの世界展」が開催されています。1961年から、およそ1400曲ものうたを育んできた「みんなのうた」の、映像上映、メイキングコーナー、写真撮影コーナー、グッズ販売などがある展覧会とのこと。編集部メンバーが見学した「ガイナックス流アニメ作法」も引き続き開催中。時間は10:00から17:00(受付は16:30)まで。問い合わせは福島ガイナックスさんへどうぞ。

空想とアートのミュージアム 福島さくら遊学舎

運営

株式会社福島ガイナックス

住所

〒963-7725
福島県田村郡三春町大字鷹巣字瀬山213番地

開館時間

10:00~17:00(受付は16:30まで)

定休日

不定休

電話番号

0247-61-6345

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もえ

宇都宮大学地域デザイン科学部1年。白河脱出の関東人。相変わらず嵐とディズニーには目がない。「私にたくさんの縁を繋いでくれた方々のように、私も街づくりの中で人と人との縁を結べるような存在になりたい」と思いながら地域について勉強中。前後編の記事の次は何を書こうか悩み中。