「市民力を上げ、街の空気を変える」―コミネス館長・志賀野桂一さん

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ワカ 高校生
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みなさん、公共ホールの「館長」は何をしているか、知っていますか?なんとなく偉い人というイメージだけで、ピンとこない人が多いのではないでしょうか。白河市に新しくできた公共ホール「コミネス」の館長・志賀野桂一さんに、知っているようで、よく知らない「館長」の仕事を教えてもらいました。

「館長」=「プロデューサー」?


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志賀野さんの名刺を見ると、「館長」のほかに「プロデューサー」の肩書きがあります。この意味が、「館長」の仕事を説明することになります。
志賀野さん
プロデューサーとは、何もないところから何かを創り上げる仕事です。
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「コミネス」の様々な事業を創る、志賀野さんのプロデューサーの仕事は、ゼロの状態からどのようなコンセプトでイベントを行うのか、どのような構想で、何をするのか――。企画の立案と、その骨組みを”創る”ところから始まります。予算や危機管理だけではなく、ゼロから企画を創り上げるという使命が込められているのが「プロデューサー」という肩書きなのです。
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企画の立案をはじめたら、まず考えなければいけないのが”予算”。呼ぶ人や演出方法、入場料をいくらにするのかといった、予算の管理を行います。そして、”危機管理”。イベント開催中に問題が起こったときにどうするのか、事前対策と現場での対策を考えていきます。また、スタッフの役割の振り分け、外部人材やボランティアに動いてもらうのかなど、人事の管理も仕事の一つです。さらに、広報の仕事。新聞やテレビといったマス媒体、SNSを活用した広告宣伝も行います。ゼロからコンセプトを創り上げ、お金、危機管理、人、広報、時間…そこまでコントロールするのが「プロデューサー」の仕事だそうです。
志賀野さん
年間で無数にこのようなことを行います。そのときそのときに考えていたら間に合いません。
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「コミネス」のホールは1年前から予約されてしまうため、1年以上前から主催事業を決めていかなければなりません。志賀野さんは、他の公共ホールとは違い、館長職に加えて「プロデューサー」はもちろんのこと、「演出家」「研究者」といった役割も兼任しています。
志賀野さん
私の役割は「特殊とはいえないが特別な存在」。いまはまだ、公共ホールの館長としては特別な存在だと考えていますが、これからの公共ホールには普遍的に求められる仕事だと考えています。

30年以上の蓄積


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地方行政の職員や大学教授として30年以上、芸術文化や町づくり、文化政策、アートマネジメントに関わってきた志賀野さん。プロデューサーとして、自信を持って作品やアーティストを売り込みたい。自信を持って売り込むには、自分の見聞きしたものであることが重要だと考えているそうです。だからこそ、旺盛な好奇心で見たり聞いたりすることが重要だと言います。
ワカ
どうしたら、そんな蓄積ができるんですか? どうやって人生を過ごせば、そうなれますか?
志賀野さん
うーん、まずは遊ぶことだね。好奇心の赴くままに、たくさん作品を見る。
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好奇心を持って物事に取り組むと、周りからは「遊んでいる」ように見えます。しかし、「遊ぶ」ことを通して、売り込むものを判断したり、選択する力を養うことができるといいます。知らない演目(例えばオペラや能)でも、まずは3つ以上、優れたものを観劇することで、少しづつ自分の評価軸が見えてくるとのこと。知らない土地では、町歩きをしたりして、何かを発見するように努めているそうです。

このまちに来た理由

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志賀野さんはあくまで、「館長」の意識ではなく「プロデューサー」として白河市に来たといいます。
志賀野さん
コミネスの活動を通して、町の空気を変えることがミッションです。
ワカ
市民の人たちに「コミネス」のイベントに参加してもらうことで、まちに「生きた」空気が流れることを期待しているそうです。それが、「市民力の向上」につながると考えているとのこと。
そのためには鑑賞、出演、サポート…3通りのお客さんの関わり方が不可欠なのだそう。特にサポートするお客さんが市民力向上に重要な役割を持っています。お客さんとして鑑賞してもらうだけではなく、ときには裏方で手伝ってくれることにより、舞台芸術の仕組みや本質を知り、多くのことを学んでもらうことが、まちの持つ「市民力」向上になると言います。
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例えば、「コミネス混声合唱団」。
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この合唱団は、歌を通して、感動を届け、広く社会に貢献することを目的とし、コミネスの様々な主催行事に出演しています。さらに今後は、市民オーケストラも作っていくかもしれないとのこと。市民中心の活動はこの先も広く展開されていきます。そして、もう一つの取り組みは、オペラ「魔笛」。2017年冬、「コミネス」最大の目玉作品でした。このオペラの演出は志賀野さんが手がけました。
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一般的にオペラには、様々なノウハウ、人、技術が詰まっているため、開館当初に上演するのは無謀なことなのだそう。オペラの上演には、歌や踊り、衣装など多くの仕事が求められます。開館まもないコミネスが「魔笛」に取り組むことで、総合的に力がつき、市民や職員の人材育成につながっていくと考えているそうです。
志賀野さん
白河版オペラ「魔笛」の目標は、きちんと見たり聞いたりできるプロレベルのクオリティにし、オペラの水準に持っていくことです。稽古も舞台のまわし方も全てプロレベルをめざす。教えるのもプロなので、オーディションで選ばれた子供たちはそれについていかないといけないから大変です。

芸術をプロデュースするわけ

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志賀野さんが芸術に関わるようになった原点は、小学校のときに見た野外オペラだと言います。
志賀野さん
当時は全然、話が分からなかった。でも、自分の潜在意識のどこかに、この経験が生きていると思っています。
ワカ
過去の蓄積からイベントを創り上げ、それを館長として予算や危機管理などを実施して実現していく。考える力と実現する力、2つの力が「プロデューサー」に必要なものだとわかりました。
そんな志賀野さんの感じる舞台芸術の醍醐味はなんでしょうか。
志賀野さん
お客さんがいないと舞台芸術は成立しないことです。舞台芸術は、お客さんと演じる人が相互に交流して出来上がるもの。お客さんによって演奏も劇も変化する。お互いに呼吸し、その場が作られていくことが醍醐味ですね。
ワカ
最後に志賀野さんは芸術をプロデュースし続けるわけを教えてくれました。
志賀野さん
数十年やっていても、舞台芸術の醍醐味を感じ、感動する瞬間がある。このことが、次もまた(舞台を)やってみたいと思う。そんなモチベーションがあります。
ワカ
知っているようで知らない「館長」の仕事。一度「コミネス」に足を運び、関わる全ての人の「仕事」を肌で感じてはいかがでしょうか?

ワカ’s 取材後記

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今まで知らなかった館長の仕事や、「コミネスの館長」独自の仕事を知ることができ、今回得た知識は、今後の活動に生かせると思います。志賀野館長の話を聞いて、任天堂の岩田前社長が言った「私の名刺には社長と書いてありますが、頭の中はゲーム開発者です。心はゲーマーです。」という言葉を思い出しました。肩書きは館長、頭はプロデューサー、心は遊び人だと感じました。

志賀野桂一(Shigano Keiichi)

「コミネス」館長/プロデューサー

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1973年 山形大学人文学部を卒業し、仙台市役所に入所。2003年4月 仙台市企画市民局文化スポーツ部長に就任。2008年4月 東北文化学園大学総合政策学部教授となり、2016年3月に退官。同年4月にコミネス館長に就任する。

白河文化交流館・コミネス

住所

〒961-0075 福島県
白河市会津町1-17

定休日

火曜日(イベント開催日等を除く)

電話番号

TEL 0248-23-5300

URL

白河文化交流館・コミネス